旭川地方裁判所 平成8年(わ)113号 判決 1996年10月28日
裁判所書記官
峰田陽一
被告人(所得税法違反、法人税法違反被告事件)
氏名
秋元勲
年齢
昭和一五年一月一〇日生
本籍
北海道稚内市中央三丁目八〇番地
住居
北海道稚内市中央三丁目一〇番八号
職業
会社役員
被告人(所得税法違反、法人税法違反被告事件)
氏名
皆松昭夫
年齢
昭和一四年五月二六日生
本籍
北海道留萌市末広町一丁目四二番地
住居
札幌市厚別区大谷地東三丁目二番一ターミナルハイツ大谷地一〇〇六号室
職業
会社役員
被告人(法人税法違反被告事件)
法人の名称
カネマタ秋元水産株式会社
本店の所在地
北海道稚内市末広三丁目七番七号
代表者の住居
東京都渋谷区広尾四丁目一番一二号広尾ガーデンヒルズG棟一三〇四号
代表者の氏名
秋元大輔
検察官
桒名仁
被告人秋元勲の弁護人(主任)
坂下誠
千葉健夫
被告人皆松昭夫の弁護人(主任)
工藤倫
成川毅
被告人カネマタ秋元水産株式会社の弁護人
坂下誠
主文
被告人秋元勲を懲役二年六か月及び罰金一八〇〇万円に、被告人皆松昭夫を懲役一年六か月及び罰金四〇〇万円に、被告人カネマタ秋元水産株式会社を罰金五〇〇〇万円にそれぞれ処する。
被告人秋元勲においてその罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人皆松昭夫においてその罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人秋元勲及び被告人皆松昭夫に対し、いずれもこの裁判確定の日から四年間それぞれその懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人秋元勲は、昭和五三年ころから稚内市末広三丁目七番七号において「カネマタ秋元商店」の名称で水産物卸売業等を営み、その後、平成五年一月一四日から平成八年三月三一日までは、右商店の営業を引き継いだ被告人カネマタ秋元水産株式会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたもの、被告人皆松昭夫は、経営コンサルタント業等を営んでいたもの、被告人カネマタ秋元水産株式会社は、前記場所に本店を置き、水産物卸売業等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社であるが、被告人秋元勲及び同皆松昭夫は、共謀の上、
第一 被告人秋元勲の所得税を免れようと企て、同被告人の平成四年分の実際総所得金額が一億五八九〇万九八五四円(別紙1の修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成五年三月九日、稚内市宝来二丁目二番二四号の所轄稚内税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が七九一万三三二六円であり、これに対する所得税額が八九万七八〇〇円である旨を記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額七四七六万七五〇〇円と右申告税額との差額七三八六万九七〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ、
第二 被告人カネマタ秋元水産株式会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、平成五年一月一四日から同年一二月三一日までの事業年度における同被告人の実際所得金額が五億四〇六〇万五四四七円(別紙3の修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、法人税の確定申告書提出期限の経過後である平成六年三月一〇日、前記稚内税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九六五万六七三四円であり、これに対する法人税額が二八六万一〇〇〇円である旨を記載した虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度における正規の法人税額二億〇一九六万六八〇〇円と右申告税額との差額一億九九一〇万五八〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。
(証拠)(括弧内の番号は、証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。)
判示全部の事実について
1 被告人秋元勲(以下「被告人秋元」という。)の
(1) 公判供述
(2) 検察官調書六通(乙2から4まで、乙9から11まで)
2 被告人皆松昭夫(以下「被告人皆松」という。)の
(1) 公判供述
(2) 検察官調書(乙18)
3 秋元満子、秋元大輔及び鶴岡みはるの各検察官調書
4 合意書面
5 告発書
6 商業登記簿謄本(甲4)
判示第一の事実について
1 被告人秋元の検察官調書二通(乙5、7)
2 被告人皆松の検察官調書(乙16)
3 捜査報告書二通(甲6、7)
4 脱税額計算書(甲2)
判示第二の事実について
1 被告人秋元の検察官調書二通(乙6、8)
2 被告人皆松の検察官調書(乙17)
3 捜査報告書(甲8)
4 脱税額計算書(甲3)
(法令の適用)
一 被告人秋元及び被告人皆松の判示第一の所為は刑法六〇条、所得税法二三八条一項(被告人秋元に対し情状により更に同条二項)に、右被告人両名の判示第二の所為は刑法六〇条、法人税法一五九条一項にそれぞれ該当するところ(被告人皆松に対しいずれも刑法六五条一項を付加する。)、各所定刑中右被告人両名の判示第一の罪についていずれも懲役刑及び罰金刑の併科刑を、被告人皆松の判示第二の罪について同併科刑を、被告人秋元の判示第二の罪について懲役刑をそれぞれ選択し、以上はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、右被告人両名に対しそれぞれ懲役刑について同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、被告人皆松に対し同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その各刑期及び各金額の範囲内で、被告人秋元を懲役二年六か月及び罰金一八〇〇万円に、被告人皆松を懲役一年六か月及び罰金四〇〇万円にそれぞれ処し、右各罰金を完納することができないときは、同法一八条により、被告人秋元については金五万円を、被告人皆松については金二万円をそれぞれ一日に換算した期間、各被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して右被告人両名に対しこの裁判確定の日からいずれも四年間それぞれその懲役刑の執行を猶予することとする。
二 被告人カネマタ秋元水産株式会社(以下「被告人会社」という。)の判示第二の所為は法人税法一五九条一項、二項(情状による。)、一六四条一項に該当するので、その所定金額の範囲内で被告人会社を罰金五〇〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
一 本件は、水産物卸売業を個人で営み、その後被告人会社の代表取締役の地位にあった被告人秋元が、被告人皆松と共謀し、いずれも虚偽過少の確定申告書を所轄税務署長に提出する方法により、被告人秋元の平成四年分の所得税七三八六万九七〇〇円及び被告人会社の平成五年の事業年度における法人税一億九九一〇万五八〇〇円をそれぞれほ脱した事案である。そのほ脱額の合計は二億七〇〇〇万円を超え、ほ脱率も平均約九八・七パーセントと高率に及んでいる。被告人秋元及び被告人会社はその営業に関して会計帳簿類を作成しておらず、被告人秋元と被告人皆松の両名は、架空の仕入れを計上したり、経費を大幅に水増しするなどして適当に数字を操作して各確定申告書を作成しており、その犯行の態様は稚拙な面を否定できないものの、大胆、悪質というべきである。のみならず、同被告人らは、平成六年一〇月に国税当局による調査を受けた後も、事実を否認するとともに簿外資産や関係証拠を隠匿し、口裏を合わせるなどして犯跡を隠滅する工作を行っており、犯行後の各対応についても強い非難が妥当する。
二 さらに、被告人らの個別の犯情をみてみると、まず、被告人秋元は、昭和六一年にカネマタ秋元商店が事実上倒産した際、債権者からの厳しい取立てを受けるなど経済的に困窮した生活を経験したことから、ロシアからカニを輸入するルートの開拓に成功して平成四年ころ以降多額の利益を得るようになると、再び生活苦を味わうことのないよう将来のために資産を蓄えたいなどと考えて、本件各犯行に及んだものであり、本件に至る経緯や動機に格別酌むべき事情は見当たらない。被告人秋元は、被告人皆松に平成四年分の所得税の申告手続を依頼する前に、既に数千万円の無記名割引債券を購入して資産を秘匿していたもので、判示第一の犯行に際して、あらかじめ売上げの一部を除外し、経費を水増しした虚偽の集計表を被告人皆松に渡して確定申告書を作成させるなどしたほか、判示第二の犯行に際しても、多額の報酬を提供して被告人皆松に虚偽の確定申告書の作成を依頼しており、当初から強固なほ脱の意思を有していたことが明らかである。加えて、前記の分を含めて合計二億円の無記名割引債券を購入したほか、家族名義で定期預金口座を開設したり、高級外車や不動産を購入するなどして多額の資産隠しを行った点や前記のような調査後の態度などを考慮すると、被告人秋元及び被告人会社の刑事責任は重いといわざるをえない。
一方、被告人秋元は、平成八年二月にはほぼ素直に事実を認めるに至り、被告人秋元及び被告人会社においてそれぞれ修正申告を行った上、既に本税、重加算税及び附帯税の全額を納付していること、顧問税理士の指導のもとで被告人会社の経理体制を刷新し再犯の防止に努めていること、被告人秋元は、これまで傷害罪で罰金刑に処せられたほかに前科はなく、現在は本件犯行を深く反省していることなど被告人秋元及び被告人会社のために斟酌すべき事情も認められる。
三 次に、被告人皆松についてみると、同被告人は、業務上横領罪による前科二犯を有し、昭和五七年に最終刑を仮出所した後、昭和六一年ころから経営コンサルタント業を営んでいたが、税に関する知識を悪用して不動産取引などに絡む脱税を手伝って高額な報酬を得るようになり、それとともに遊興費等による借金がかさみ、更に多額の報酬を目当てに本件各犯行に及んだもので、その動機に酌むべき点はない。また、被告人秋元が税の知識に乏しいことからすると、本件各犯行において被告人皆松が果たした役割は重要であり、その報酬も合計一四〇〇万円と高額に上っている。そして、前記のように調査後も積極的に罪証隠滅工作を計ったほか、知人等を紹介してはもみ消しのための相談料等と称して被告人秋元に合計数千万円を供出されるなどしており、被告人皆松の刑事責任も重いというべきである。
一方、被告人皆松は、本件によって四か月余りの間身柄拘束を受け、現在は反省の態度を示していること、今後は知人の紹介で正業に就く予定があることなど同被告人に有利な事情も認められる。
四 以上のような、被告人らの諸事情を総合考慮すると、被告人会社に対しては、主文記載の罰金刑を科し、被告人秋元及び同皆松に対しては、それぞれ主文記載の懲役刑及び罰金刑を科した上で、懲役刑についてはいずれもその執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑 被告人秋元につき懲役二年六か月及び罰金二〇〇〇万円、被告人皆松につき懲役一年六か月及び罰金五〇〇万円、被告人会社につき罰金六〇〇〇万円)
(裁判長裁判官 林正彦 裁判官 増田稔 裁判官 菱田貴子)
別紙1
修正貸借対照表
<省略>
別紙3
修正貸借対照表
<省略>
別紙2
ほ脱税額計算書
<省略>
別紙3
ほ脱税額計算書
<省略>